2050年の脱炭素社会の実現に向けて、建築分野の貢献が求められています。最先端の省エネルギー・創エネルギー技術も、使い方が悪ければ効果を発揮できません。建築分野の脱炭素の達成には、建物、設備の性能だけでなく、それらを使う「人」の生理・心理・行動特性の理解が重要です。人―設備―建築をスムーズに連携させるインターフェイスの研究を通じて、健康・快適・脱炭素を無理なく実現できる建築環境のデザインにつなげていきます。
人間は恒温動物なので、深部体温(約37℃)が変化しそうな状況に暑さや寒さを感じます。太古の人々は寒さから逃れるために毛皮をまとい、シェルターを建て、たき火で暖をとりました。今は衣服、建物、暖房がその役割を果たしています。日本は、2050年までにCO2排出量の実質ゼロを目指していますが、建物で使われるエネルギーの約1/3を占める空調設備の対策が課題です。
空調された部屋に長時間いると、1~2℃の違いでも不満を感じます。空調で快適な環境を提供することが、より高度な要求につながってしまうのです。ですが、外に出たときにそんな微妙な温度変化を意識するでしょうか。多少の暑さや寒さを感じても、自然と服を調節したり、日陰や日向を求めて移動したりしているのではないでしょうか。不快な状況を自分でなんとかしなければという意識が、本能的な環境適応行動につながっていると考えられます。屋外に近い建築環境、すなわち半屋外環境での利用者へのアンケート調査や行動観察から、人の環境に対する生理的・心理的な反応や行動の特性が見えてきます。各自で快適性を獲得しやすい状況を用意する。そのような環境計画手法を、建築と設備の面から提案しています。