「有機典型元素化学」とは、ケイ素やホウ素などの典型元素と炭素との結びつきを考える化学です。典型元素と炭素との結合をいかに上手につなげたり、逆に切断したりするか(新しい合成法・反応の開発)、そのような化合物がどのような構造をしているか(構造化学)を研究します。さらに、化合物の構造を精密に設計することで、その化合物にこれまで以上の、またはこれまでにない機能を持たせることができないかを考え、実際に合成して評価します。
「典型元素」は高校の化学の教科書にも出てきますが、自分の身の回りのどこにどのように存在しているかを意識したことは、あまりないかもしれません。例えば、私たちの研究室で扱っている典型元素として「ケイ素」が挙げられます。「ケイ素」は、砂や石の構成成分として、IC や太陽電池などの中の半導体として、また、シリコンというゴムやオイルとして身の回りに数多く存在しており、今や私たちの生活に欠くことの出来ない「典型元素」の一つになっています。しかし、この「ケイ素」を他の元素、例えば「炭素」と思った通りに結合させ、思った通りの構造と性質をもった化合物をつくることは、それほど簡単なことではありません。「ケイ素(典型元素)」にはまだまだ未知の部分が多いからです。有機化学およびコンピュータを用いた計算化学の発達によって、ある程度の方針や予測をつけることはできますが、実際は試行錯誤の連続です。私たちの研究室では、「典型元素の化学」を築くための基礎的な知見の集積をおこなっています。それは具体的な製品開発などに直接結びつくものではありませんが、製品を開発する上での原理や共通のルールとなるものです。そういうことを行う場は、大学の研究室をおいて他にありません。