研究室の学び

細胞を取り巻く環境(温度、栄養物質・有害物質の濃度、pH など)は時々刻々と変化するため、どんな細胞も環境変化を感知し、適切に応答するしくみを備えています。当研究室では、バクテリアを材料として、環境センサーを同定し、情報識別・伝達・適応の分子機構を解明することで、細胞システムを総合的に理解することを目指しています。この研究を通して、遺伝子操作・発現解析、蛋白質構造・機能解析、さまざまな顕微鏡観察などの技術も習得します。

社会との接点

単純な生物と思われがちなバクテリアですが、実はさまざまな高度な能力を有しています。地球上に生息する多くのバクテリアの能力を解明し、利用することができれば、人類社会にとって極めて有用です。たとえば、バクテリアの環境応答センサーは、一つで多くの刺激(複数の化学物質、pH、温度)を感知できる多機能性をもちます。これを使った人工センサーを作ろうと、学外の研究所と共同で開発を行っています。また、バクテリアはさまざまな物質を分解し、利用する能力を備えています。たとえば、エビ・カニやプランクトンの外骨格を形成するキチンは海洋バイオマスとして注目されていますが、分解しにくい難点があります。海洋ビブリオ菌は、このキチンを分解する能力に加え、キチンの分解産物を感知し、そちらに寄っていく能力を備えており、このしくみの解明を目指しています。一方、バクテリアの一部はヒトや家畜に感染し、病気を引き起こします。ここにも環境応答センサーが関わっています。また、多くの抗生物質が効かない多剤耐性菌が問題になっていますが、これは抗生物質を体外に排出するポンプをもっているからです。このような負の側面にも着目し、病原性や多剤耐性の解決に向けて、分子機構解明を目指しています。

主な研究テーマ

  • 環境センサーの作動機構解明:化学物質認識機構、温度受容機構、信号増幅機構、細胞内局在と機能の関係、発現調節機構、病原性との関連
  • 環境応答分子機構解明:環境応答システムに対する圧力の影響、遺伝子発現制御と環境応答調節の関連
  • 多剤耐性ポンプの作動機構解明:ポンプ蛋白質の細胞内動態および薬剤排出能との関連、発現調節機構